したことはないんだからハハハハ」
伸子は、涙ぐむほど、傷つけられた。熱心に見ていたよろこびが嘲弄されたように感じられ、ぎごちない娘である自分がそれをよろこんでいることが恥しめられたように感じた。そんなに思っている本なんか、ちっとも貰いたくない。むきにそう思った。けれども、そのままを言葉に出してことわることも出来なくて、その分厚い本を女中にもってもらって帰って来た。そして、もう二度と稲田のとこへなんか行かないと心にきめた。この建築家は後に、有名な赤坂の芸者であったひとを細君にした。
今になって大人の女となった伸子として思えば、それは、稲田の毒舌と知人の間になりひびいていたその人のいいそうなことであったし、稲田の都会人らしいてらいや弱気のあらわれとも考えられた。しかし、一人前の男が、十六七の小娘にどうしてそんな態度をとらなければならなかっただろう。自由主義の評論家として大家の扱いをうけている早川閑次郎が、きょうの茶話会で中国女学生たちに話した話しぶりも思いあわされた。
稲田信一や早川閑次郎の女に対しての毒舌と辛辣さは、結局裏がえされたフェミニズムの一種だということは、ちかごろは伸子に
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