いにく西日に向った側だった。ぎらついた光線は、電車の走ってゆく大通りの高いビルディングの前にさしかかった時だけはさえぎられ、またたちまち町並のすき間から、低い瓦の屋根屋根の上から、伸子の顔の真正面にきつくてりつけた。落ちつかない気持で顔をそむけながらのってゆくうちに、伸子は何年もの昔、まだ十六七だった自分が、やっぱりこういう焦立たしい西日を顔にうけながら、牛込のある町を女中と一緒に歩いていたときのことを思い出した。
 それはまだあかるい夏の夕方であった。酒屋の店さきなどに打ち水がされている牛込のせまい通りを、白地に秋草の染めだされた真岡の単衣《ひとえ》を着て、板じめちりめんの赤い帯をしめ、白足袋をはいた伸子が歩いていた。伸子の父の年下の友人で、稲田信一という建築家があった。その人は、江戸ッ子ということを誇りにしていた。角ばって苦みばしり、眼のきつい顔に、いくらかそっ歯で、せまい額の上に髪を粋な角刈めいた形にしている人であった。牛込に住んでいた。そこへ使いにやらされた。
 母が大きく結んでくれた赤い帯に、こわばった真岡木綿の単衣、うしろにすこしはね[#「はね」に傍点]のあがった白足袋とい
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