じっとしていると、伸子には、佐々の家も、この数年に、随分変って来たことがしみじみ感じられた。
変りかたは、眺めている客間の庭の様子にも反映していた。伸子が幼なかった頃の佐々の家は、家全体が茶室づくりに按配されていた。門からの入口も、台所へまわる細い道も、風雅につつましかった。それが、近頃自動車をおくようになってから、門からの細道は石だたみとなり、車庫の位置によって、台所への道がひろげられた。そのために、客間の庭の奥ゆきが何尺か削られた。もとは石燈籠と楓、松などの植えごみの裏に、人一人とおれるほどの砂利じきのゆとりがあって、ゆきとどいた庭のつくりであった。それは自動車の道のためにこわされた。植木屋がそれにつれて石燈籠を前の方へもち出してすえ直した。松の枝かげを失い、楓の下枝からむき出された燈籠に、納りをつけようと、無造作に青木が植えこまれていた。燈籠は、我からその位置を悲しむように、庭の真中へとび出て立っている。
伸子の父は、建築設計家であった。それだのに、どうして、こんな有様にしてしまって、みんながそれに無頓着で平気なのだろう。それは、この地味な八畳の土庇のついた室やそこの庭が、佐
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