行人は、皆、ぺっ! という顔をする。
市街の一廓に入った者は、日本の移民が、いかほどの執着を以て集合し、彼奴等は奴等、己は己達、という生活をしているか、驚かずにはいられないだろう。
もちろん、英語などは読めも書けもせず、日本字の看板をかけた理髪屋で髪を切り、「一寸一杯」と提灯を下げた飯屋で食事をする。
自分がいやなのは、彼等が百姓だからでもなく、「たくさん子供を産む勤勉家」だからでもない。若し、彼等が、皆、人間らしい大様さと朗らかさと自信とを持った自由労働者なら、私は、心から手を差し延ばして、他国で廻り遭った悦びを述べるだろう。
人格的に、無責任な、すれた一種の移民根性とでもいうべきもののみで、富を掻攫《かっさら》う姿は、心を傷ませる。それを見つつ、雑作なく「愛す」というのは、それだけ、彼等と直接でないことを意味する。実に、愛すのだ。けれども、実に恥じ、憤おろしく思う。
無意識のうちに、民族的絆を持っている自分は、人間として低級な、哀れむには余り依怙地《いこじ》な彼等を見ると、直ちに仲間を感じ、我々一体のために苦しい心持にならずにはいられないのである。
X氏夫妻の日本贔屓も
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