南路
宮本百合子
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)機関車《ロコモティブ》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)北|亜米利加《アメリカ》を去ろうと
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)コレハ誰ソレノオ作デ[#横書き、「誰」はアクセント(∨)付き]
−−
一
シューッ、シューッ、……ギー。
カッカッカッと揺れながら線路を換え、前の方からだんだん薄暗く構内にさしかかるにつれて、先頭の、重い機関車《ロコモティブ》からは世にも朗らかなカラーンカラン、カラーンカランという、鐘の響が伝って来る。
車内は、降りる支度で総立ちになっている。窓硝子に顔を近よせて外を見ると、遙か前方にチラチラと赤や緑の警燈が瞬き、黒く、夜のような地下の穹窿《きゅうりゅう》の下には、流れる灯に照らされて、人影が、低い歩廊《プラットフォーム》に三々五々動いている。
次第に緩くのろく止りかける車室に立って、ギャソリンくさい停車場の空気を嗅ぎながら、この楽しそうな鐘の音を聞いたらば、誰でもいい難い感慨に胸を打たれずにはい
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