、誠に感謝すべきだが、自分には、どこかにひどい無理があるのではないかと思われた。
 ああいう者だけを見、そこから日本人というものを築きあげている彼等は、実際日本の風景も見ず、日本で文化や精神生活を支えている者達にも会わず、安心して日本を好いていられるのだろうか。
 国際的な種々の感情で、同情や崇拝や義憤は、比較的誰でも持ち易いものだ。ほんとに或る民族の性格を理解し、積極、消極に働く力を知って友誼的公平の立場にあることは最も難かしい。
 今夜、ロスアンジェルスを去るという晩、日本人街を歩いて見、暗い街路と沈鬱な雰囲気に、私は忘れ難い印象を受けた。
 黒い無数の頭と泥だらけな手足。然し、どこにも澄んだ大空や、麗しい大地や、人類の生活を見守る瞳を見出せない。
 サン・フランシスコという名の与える響は、どことなく軟かな暖みを帯びている。
 然し、着いて見ると、風の荒い、いかにも厳しい冬の日が、我々を待っている。激しく揺れる渡船《フェリー》で対岸のオークランドに行き、そこからシアトルに向けて立ったのは、ちょうど感謝祭の夜であった。
 翌二十八日を終日、オレゴンの森林帯で過し、落葉林に美しく霜の置
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