始的神秘に満ちていることなどが、当時の修道僧の生活と、彼等の布教方法、崇拝の心理を、まざまざと今も伝えている。精巧な唐草模様を彫りつけた懺悔台、聖処女を中央に、種々様々な姿態で聖徒や天使の立っている聖壇。お華のあがったクリストの受難像とたくさんの聖書。
 彼等の玉蜀黍がよく実り、ほどよい雨と虹とが彼等の天地を潤すようにと、玉蜀黍の花粉を撒いて祈祷を捧げるインディアンは、これ等、南欧に源を発した宗教的儀式を、どんな心持で眺めただろう。
 オール・セインツ・デーの祭に、僧侶達が皆金襴の法服をつけ、きらびやかな旗や聖像を先に立て、蝋燭の焔を煌めかせながら、讚歌を歌って行列するのを見たインディアンが、口を開き、眼を引据えて跪ずいたのも無理もないことだと思う。また、それを見て、マリアの光栄に限りなし、と讚えた伝道者の心情も、愛すべきものではないか。
             ○
 まる二日の滞在中、さまざま自分の心に浮んだのは、若しこの日本人がいなかったら、ロスアンジェルスという市は、如何程愉快な処だろう、という思であった。カリフォルニアにおける、日本移民と土着人間の紛擾は、もう久しい以前からの
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