外廓は、自然の麗しいパアムや胡椒によって少なからず深い憂鬱を詩化されている。鮮やかな並木の陰を受けて、始めて、漆喰の剥げ落ちて内部の煉瓦が露した色調の寂しい変化も、空虚な鐘架の陰翳も、僧院らしい魅力に生かされている。
牧羊者の持つ頭の曲った杖の先に、古風な駅鈴が、スペイン語の案内札と一緒に懸っている。
我々は、他の十四五人の歴訪者と一緒に、内部を廻って見た。若い、二十一二の男が、妙にぱんぱんな着物を着、一またぎに二段の階子を飛ばしながら、さっさと口上を述べ、部屋から部屋へと通り過るのだ。
私は、良人に、「まるで、京都の三十三間堂ね」と囁いた。
違うと云ったら、京都の案内僧は、説明の抑揚を、
コレハ誰ソレノオ作デ[#横書き、「誰」はアクセント(∨)付き] と細かくつけ、この若者はのべつに、
ディース イーズ アルーム[#横書き、「ディース」の「ー」と、「イーズ」の「イ」と「ー」の間にアクセント(∨)、「アルーム」に上線] と呼ぶという位の差であろう。
せっかく見に来た者の興味も殺してしまう詰らなさで声を張りあげ、ひたすらに義務を終ろうとするのである。
内部の素朴なこと、原
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