眼を楽しませる。東海道の景物を、もっと透明な万遍ない日に輝やかせ箇々の内容を、数倍、大まかに、輪廓の線をくっきりと印象的にしたのが、この辺の景色であるといえよう。
ファン・パアムや他の緑樹が、小さい草花に飾られて、可愛らしく前庭を縁取っている彼方には、種々雑多な様式の住宅が見える。
人間が、地を愛し、空をめでて、彼等の住居を造営したら、ああいう心持にもなるものか、こんな味も喜ばれるか、と思うほど、家族の趣好、性格を表している。有名な、カリフォルニア・バンガローはもちろん、堂々としたギリシァ風の柱廊《ポルティコ》を張り出した二階建、ムーア式の華麗なアーチで装った家。到るところに、人間の情操が溢れている。紐育の、アパアトメントとは何という差異だろう。
樹木の繁みや小樹林で、暫く眼を休めると、左手に、大きな活動写真の撮影所が見える。
空気のせいか、または彼等の誇る「カリフォルニアの太陽」のせいか、自分は、晴れ晴れと見るもの、きくものを楽しむ心持になった。
良人も同様と見える。気軽に喋りながら、停留所、停留所と越して行くうちに、自分は、降りるところが心配になり始めた。
「おききになら
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