平線から、真直に、涯もない思いが忍びよって来る。雲が流れ動く毎に、砂の色が明るくなり、暗くなり、心を潜めると、静かな地球の廻転につれて、滑る砂粒のささやきまで、聴えるように感じられるのである。驟雨《しゅうう》が去り、俄に一面湖水となった砂地の上を駛せ抜けるとき、自分の驚異は、頂上に達した。
一足前に、煤色の雨雲が一団、非常な速力で先駆している。けれども、頭上の雲はまるで燦き、黒燿石のような嶺と漣立つ水の面に、ぱっと、目醒めるような薔薇色を振り撒いているのである。
軽風も流れている。どこかに虹もかかっているに違いない。新鮮に、濡れ、輝く万物の中を、列車は、一筋の黒い飾帯《サッシ》のように縫って行くのである。
[#楽譜入る]
自分は、うつろう影と色とに混って、微かな音律を聴くように思った。
Chuap−tono,
Chuap−tono,
Kela ite tsina−u ?
目には見えないけれども、彼方の嶺や此方の山に、ホピ・インディアン(Hopi Indian)ピマ・インディアン(Pima Indian)その他、インディアンの数部族が、彼等の平屋根の上で、素焼を作り、
前へ
次へ
全66ページ中46ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング