を洗い去るには、それと同量の情熱が必要なのではないだろうか。大抵の場合、彼等は夢中で恋をする。
今度の欧州戦乱で、英国フランス白耳義《ベルギー》その他から“War bride”として紐育の埠頭に著いた婦人の靴だけでも、夥しいものであった。
デスペレートな点では、女性も同様であったのだと思う。彼女等は、殆ど皆胸に当歳の嬰児を抱き、粗末な風で甲板に並び、愛嬌の微笑と動揺する不安とを外国人らしい瞳の裡に湛えながら、写真にとられているのである。或る場合、人間のする恋は、環境と動機の悲痛さから、眼もあてられない感を起させる。
――もちろん、彼の若い母が、仏国から来た人でないことだけは、顔の様子でも明に分っている。けれども、背景にこれ等の忘れ難い印象をもって看るためか、彼等三人が一塊りになり、揺れる座席の間を釣合をとりとり通り過るのを見ると、身辺から、無数の人群と生活とが見徹せるように感じた。
七
二十二日一日を、ニュー・メキシコの一部とアリゾナの砂漠に送り、自分は始めて、砂漠が、如何程微妙な美に満ちているかを知った。
日本にいて砂漠というと、自分はよくゴビの砂漠とい
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