傍でそれを見ているうちに、だんだん自分の心の中には、最初とはまるで異う現象が起って来た。病人と称する婦人に対する同情が次第に薄らぐと共に、もう一人の、アメリカにもこんな人がいるかと思うほど、従順な地味な婦人に、一種の感歎を持ち始めたのである。
自分に、とても、あの真似は出来ない。恐らく歇私的里《ヒステリー》か何かで、頭の痛さを誇張すると同時に、わがままと傲慢とを憚らない態度に遭いながら、あれほど虚心にはいはいと世話が出来るだろうか。
種々手数を煩した揚句、ようよう満足して先の婦人が出て行ってしまうと、今度は彼女自らが、溜息一つつかず、身支度にとりかかった。
私は、思わず、
「貴女は、ほんとに親切な方だ」
と云った。そして、見栄えのしない丸顔を、一層沈める薄鼠色の絹服を裾の方から引あげる様を見守った。
「――一つは気で痛むんですね……」
彼女は、もう今迄のことをまるで忘れたように訊き始めた。
「どちらからいらっしゃいましたの?」
「紐育から」
「まあ、紐育はようござんすね。去年半年ほどおりました。――遠くまでですの?」
私は、自分の計画を話した。
「私は、今日の夕方着く△△
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