ってしまわなければ、到底落付けない旅路を思い知るのである。
 午後七時に、また車室の座褥《クッション》が我々を迎えるまで、二人は、云い難い心持を互に堪えながら、本屋を訪ね、図書館に行きして、時を費した。
 ニュー・オルレアンスという街は、たとい黄金で道路を葺《ふ》いてあっても、我々には淋しいストレンジャアであったろう。
             ○
 昼見ると夜見るのとでは、同じ場所でも全然異った感じを与えられる。
 晩食を早めに終って停車場へ来て見ると、燈光が隅々まで煌めき渡った建物の内部は、まるで今朝来た処とは思えない。一時預けにして置いた手荷物を取り、赤帽に荷の始末を頼んで、我々は、発車に間のある列車に這入《はい》った。
 窓枠や扉の仮漆《ヴァニッシュ》は、相変らず天井の燈で燦ついている。暗緑色の座席には、同じように微かな煤煙の匂いが漂っている。
 暫くで馴れた光景を見出すと、自分は深い懐しさを覚えた。ここでは、少くとも、二人で腰かけていられるだけの場所がある。――
 我々は、ちらほら人のいる幾つもの車室を抜けて、最後尾の展望車に行って見た。
 デックに立って見ると、ちょうど、改
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