トルまでリチェックし、二三日滞在する予定になっているロスアンジェルスの知人に電報を打ちなどすると、先ず自分が、神経的に精力を失ってしまった。
屋外には、紐育の復活祭《イースター》時分のように烈しい日光が照っている。
停車場の附近は一帯の黒人街で、いかにも南方の植民地らしく拱廊《アーケード》になった歩道の片側には、塵まびれの小店が、びっしりと軒を並べて詰っている。
屋蓋つきの荷馬車が、鞭で打たれるドンキーに挽かれて、後から後から凄じい勢で駈け去る車道の明るさと相反して、強い暗がりが、拱廊の奥を領している。
そのうちに、ストゥールにちょいと跨《またが》ったシャツ一枚の黒奴が、閃く眼と、古物の短銃、短刀、馬具類の金属を不気味に光らせて、行人を見守っているのである。
歩道を縫い、車道を横切って暫く行くうちに、自分は、人種が混雑し、感情と意欲が激しく錯綜した市街の空気を明に嗅ぎ知るような心持がした。それと、同時に、今の自分の心持とは、余りに懸け離れた雰囲気であることをも感じずにはいられない。
騒音や雑踏、絶間ない動揺は、もう飽きられた。どこか安らかなコオジー・コオナーに、暫くでも静に
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