水の上では、出来るだけ幅広く、短く、さっと渡り切ってしまうことを希い、断崖の上では、一斉に、坐席《シーツ》の上で身動きすることさえも憚って、出来るだけ、細長く、しなやかに、すらりと危い角を辷りたく思う。――
 うるんだように白っぽく輝く空の下に、やや黄味を帯びた浅黄色の水面、金色のきらめく繊細《デリケート》な枯葦の上を、翼の淡紅色な鶴に似た鳥がゆるやかに円を描いて舞う光景が、暫く自分に我を忘れさせた。

        五

 ニュー・オルレアンスの、小さい雑駁な停車場に降りて見て、始めて、自分の心持は、長閑《のどか》な Tourist の心境と、どれほど異ったものであるかを知った。
 合衆国有数の棉花市場で、一八〇三年かにジェファソンに取られるまでは仏蘭西《フランス》の植民地として、今でも或る部分には、少なからず仏国風の慣習や気分を保っているというこの市は、廻って見たら決して詰らない場所ではないだろう。
 我々は、次の列車に乗込むまで、およそ六時間ほど、余裕を持っていた。若し、気さえあれば、相当に賢いサイト・シーイングが出来ない訳ではなかったのだ。
 けれども、手間を取って荷物をシア
前へ 次へ
全66ページ中29ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング