に、アラバマは通り抜けてしまったのだろうか。
 どこかの停車場を出ようとする激しい動揺で目を覚し、バースの裡に起き上って窓懸けを引くと、外は、目を驚ろかす南方の風景に換っている。
 最初の乗換場であるニュー・オルレアンスには、多分十時頃着く予定である。
 珍しい外景に、自分は知らず知らず興奮した。そして、急いで着物を着け、良人を誘って、食堂に行った。First Call が済んだばかりで、未だ内部はすいている。静に朝日をうける窓から、ここでならゆっくり外を眺められるのである。
 窓枠に区切られて、連続した小画のように飛び去る自然の、先ず植物の異様なのが注意を牽く。
 カロライナ辺では、黄葉する闊葉樹が多いらしく、一目見て、秋の田野、空気と空とを連想させた。
 然し、今、眼に写る植物といえば、第一、皆黒ずんだ暗緑に鬱蒼としている。葉のこまかな、幹の古さびた名の知れない大木が、雲をつくような柳の、気味悪く暖いうねりに混って生えている。
 海藻のような寄生木《やどりぎ》が、灰緑色にもさもさと親木を覆いつくして、枯れ枝が、苦しげにその間から腕を延して外に出ている。
 自分は、気をつけてそれ等を
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