ょう、ね。国ちゃん達を呼んで来て頂きましょうよ」
と云うが、おばあさんは低い声ながら、
「折角出かけたからには行って見べし」
と、程なく自分から立って帯などをしめるのであった。
 上戸《じょうご》という駅で私たちは汽車を降りた。朝から曇っていたところ汽車を降りたら雨が細かく降り出している。二間ばかりの掘割があって、往来の左右に柳が茂っている。バスケットなど下げて湖の畔まで歩いて行くうちに、雨は本降りのようになった。湖畔にひとを泊める家は一軒しかないらしかった。ほんとうの田舎宿で、上り端の埃だらけな板敷の隅に南瓜《かぼちゃ》がどっさり並べてあった。キシキシと暗い段梯子をのぼって天井の低い二階へあがると、すぐそこの部屋に黄色い髪をした女の西洋人が若い日本の女と乱雑な荷物の間で何かしていた。水の入ったブリキの大きい盥のようなものが煤けた畳の真中に出ている。狭い廊下の通りすがりに私共の目にちらりと入ったその光景は、場所が南瓜のころがったりしている穢いところだけに、何だか異様な感じがした。
 その隣りの部屋に私たちは泊ることになった。さて、窓に肱をかけて、私共は雨の中をおばあさんと一緒に辿りつい
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