た猪苗代湖の面を凝《じ》っと眺めわたすのであったが、水の色も空の色も同じに濡れた薄灰色で、遙か対岸の山まで煙っている景色は、湖面が広々としているだけに、とらえどころなく思われた。雨脚は目に見えているのに、湖に近いそこは砂地なせいかあたりに雨だれの音さえしないのも、気分を沈ませた。私は早熟な感情で、田舎宿の様子や隣室の西洋人の女の暮しぶり、雨の湖の風景などを眺め味わおうとするのであったが、弟たちは窓に二人並んで物も云わず、簡単に降りこめられた姿である。
暗くなってよっぽどしてから、五分芯の台ラムプが下から運ばれて来た。夕飯の膳には南瓜と、真黒で頭の大きい干魚の煮たのとがついた。なかなかむしれず、箸でたたくといかにも堅い音がする。ほら、こんな音がする、と私共がかわり番こにその黒い干物の煮つけをたたいていると、おばあさんが、自分のお膳にもついている同じ魚を皿ぐるみ手元にとってとう見こう見していたが、やがて、
「なんだべ……鯰でねえかしふア」
と云ったので、私や弟たちは宿について初めて、ランプの灯の揺れるほど笑いこけた。
夜があけてみると、同じ曇りながらも夜のうちに雨があがって翁島の方も
前へ
次へ
全16ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング