突堤
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)黝《くろず》んで

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)あやめ[#「あやめ」に傍点]をふかしながら
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 炎天の下で青桐の葉が黝《くろず》んで見えるほど暑気のきびしい或る夏の単調な午後、格子の内と外の板廊下にいる者とが見えないところでこんな話をしている。
「どうしたんだか、まだ写真を送ってよこさないんだがね」
「江の島で撮ったんですか」
「ああ、子供ら五人ズラッとハア並べちゃってね。わしと女房と撮ったが――どうしたもんだか……」
「いくらでした?」
「三枚で一円さ」
「――普通は二週間は待ってやらなくちゃね。所書分っているんでしょう?」
「あア、ちゃんと受取の帳面があんでしょ? あれに書いていたったがね」
「受取を持ってりゃ大丈夫ですよ」
「それがよウ、どうしたことか家さ帰って、なんぼ見ても、どこさ放ろったもんか見当らないから困ってよ」
「そりゃ困った。まさか騙《だま》すってこともないだろうが」
「ふーむ」

 声のなかに響いている東北の訛《なまり》が私に、広くて黒びかりのして
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