れた重い縞の風呂敷包みを持たされた。その風呂敷包みを蹴込みに入れ、私をのせた俥が桑畑の間の草道をまわって埃っぽい街道の上へ現れる。すると、私はいくら首を捩ってももうこれ以上後は向かれないところへ行くまで、右手の小高い丘に向って、朝日を受けている俥の上から手を振った。その高みの楓の生垣の上には遠くおばあさんの立姿がいつ迄も動かず見えていた。おばあさんの小さい姿が見定められないところへ来ても、街道の俥の上からはまだ夏座敷の縁側と丸く刈り込んだ檜葉の庭木が見えた。こっちからその眺望がきく間は、おばあさんの方からもまだ私の乗っている俥は見えているわけなのであった。
田舎の生活は一日が永かった。その中でのおばあさんのひとり暮しも単調なものであったが、私にとっては刻々が都会にはない色彩と音響とに充たされたものであった。私は鶏や犬や子供や大人にくっついて、村の中をどこでも歩き廻った。
或る日夏草のむせかえるようななかに臥《ね》ていた。むこうの耕地の緩い斜面に葡萄畑が見えている。遠くで雷が鳴っている。
やがて葡萄棚で葡萄の葉がサッと白く葉裏をひるがえしてざわめき立ったと思うと、灼けた耕地の面を湿
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