っぽく重い風がうねり渡って、あっちの地平線から夕立がやって来るのが見えた。
 私はびっくりして草の中から立ち上り、驟雨の先ぶれで一層埃の匂いのきつくなった草道の間を一心に家に向って歩く。家から遠く来ていることがこの時になって始めて感じられるのであった。雷がいきなり近くへ来て鳴った。低く、威圧するように尾を引っぱって山々が谺《こだま》する。私はもう駆け出しているのだが、両脚はサッサッ、サッサッと桑の葉に幅ひろい音を立てて迫って来て、最初の雨の一粒が汗一杯の頬っぺたを打ってころがり、道の埃をまるめたと思うと四辺は水煙り、私はずぶ濡れだ。足の甲に草っぱの千切れたのをはりつけ、雨がまばらに光って降っている中を家へ辿りつくのであった。おばあさんは叱る。けれどもそれは別にこわくない。
 もう何日かで東京へ帰るという時、私の頭に虱がついているのがわかったことがあった。縁側に私を坐らせ、後に立って髪をこまかにわけては虱をかりながら、おばあさんは私までもひき入れられる程に思い入った調子で、
「虱なんぞたけて帰したら、ハアお前のおっかさんに何ぼ怒らっちゃか!」
と呟いた。そして、
「もういねえか?」
とな
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