が自分たちの生活にしみつけられたことを感じた。そしてその黒い一点はいつ見ても同じところにある。時には云った本人の弟は忘れていて私だけがハッキリそれを思い出していることを感じることもある。そういう時私は恐怖と嫌悪の混りあった激しい感情で喉元をしめつけられるのであった。
 次の弟は六つばかりの時、母の実家へ相続人として養子にゆき、姉弟の中で育てられながら一人だけ姓が違っていた。私や上の弟とは違って、彼だけは通知簿を母方のおばあさんに見せなければならなかったし、その度に、七十近くなって息子を廃嫡しているおばあさんは頼ろうとする孫にくどくどと云い、母もついそれにつれて、勉強おしとか、お前はほかの人とはちがうんだからとか、次の弟に責任を自覚させようとするのであった。
 この弟だけが姉弟たちのことを、母へ告げ口をした。
 私が十九の年、この弟は腸チブスから脳膜炎にかかって亡くなった。十五歳であった。田舎のおばあさんは歎いて、
「いたましいことをしたなあ。お前のおっかさんはあの舎弟息子を呉れてやって、ちっともめんごがらなかったでねえか」
と云ったが、それは違った。母は次の弟を決して愛していないのでは
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