結びついて理解されると、腰かけたまんまの自分の体がスーと宙に浮いて行くような恐怖を感じた。一緒に並んで腰をかけないのは、そんな用心からであったのか。十三の弟一人だけがそういう心持を持っている。そのことは恐ろしかった。やっと辛棒して私は二三分元のままの姿勢でいたが、到頭我慢しきれなくなって、湖に向ってぶら下げていた脚をそろり、そろりと片方ずつ引上げた。
「――帰ろうか」
上の弟も私に声をかけられるのを待っていたように直ぐ立ち上った。私たちのこわくなった心持を知られるのも一層こわいようで、砂地で待っていた次の弟と黙って一緒になり、私共は出たときどおりの三人組で宿へ戻った。
午後になるとまた雨が降り出した。私共は雨中の山峡に汽車の白い煙が窓を掠める間を引上げて、湖から帰った。
おばあさんの家へ帰ってからも、それから後も、次の弟は二度とあんなことを口に出さなかった。私と上の弟とは余りぞっとしたので、却って互にそれを口に出して話すことが出来なかった。姉弟三人で草っ原にころがって綺麗な夏の夕焼空などを眺めたりしている時、不図あの言葉を思い起すと、私は自分の力では拭い消すことの出来ない黒い斑点
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