た!」
「随分小さいのもいるね」
私と上の弟とは並んで腰かけ、砂へ左右の手をついて上体を折りまげ水をのぞきこんで眺め興じたが、気がついて見ると次の弟だけ一人離れて、その突堤のずっと手前のところに立ってこっちを見ている。我々のいるところからは三間たっぷり離れていて、汀に近く、そんなところに立っていたのではとても水の底の小魚は見えないのであった。私は振向いて、
「道ちゃんおいで」
と手招きした。
「魚がいるよ」
「ウン」
間をおいて思い出してはふりかえって、二度も誘うのに動かないので、
「何故来ないのさ、おかしなひと!」
私は思わずむっとした声を出した。この弟はよく私に対してこういう態度のことがあった。私はいやな気持で黙ってしまった。
「道ちゃんおいでよ」
穏やかな口調でやがて上の弟も誘った。それでもなお同じところから一歩も近づかず、次の弟は暫くして独言のように呟いた。
「姉弟《きょうだい》だって仲のいいのは小さい時だけで、大きくなれば何をするかわからない」
私はむっとしたさっきの気分のつづきで湖面へ顔を向けたままであった。が、だんだん弟の云ったことがその場所と自分たちの姿勢とに
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