も、伸子の眼は雪の降っている窓のそとへひかれがちだった。モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]の雪……活々した感情が動いて、伸子のこころをしずかにさせないのであった。雪そのものについてだけ云うならば、ハルビンを出たシベリア鉄道が、バイカル湖にかかってから大ロシアへ出るまで数日の間、伸子たちは十二月中旬の果しないシベリアの雪を朝から夜まで車窓に見て来た。それは曠野の雪だった。雪と氷柱につつまれたステイションで、列車の発着をつげる鐘の音が、カン、カン、カンと凍りついたシベリアの大気の燦きのなかに響く。白い寂寞は美しかった。列車がノヴォシビリスクに着いたとき、いつものとおり外気を吸おうとして雪の上へおりた伸子は、凍りきってキラキラ明るく光る空気がまるでかたくて、鼻の穴に吸いこまれて来ないのにびっくりした。おどろいて笑いながら、つづけて咳《せ》きをした。そこは零下三十五度だった。雪が珍しいというのではなく、こんなに雪の降る、このモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]の生活が、伸子の予感をかきたてるのであった。
食事も終りかかったころ、瀬川雅夫が、
「さて、あなたがたのきょうのスケ
前へ
次へ
全1745ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング