ジュールはどういう風です?」
と、伸子たちにきいた。
「別にこれってきめてはいないんですがね」
きな粉《こ》色のスーツが黒い髪によく似合っている素子が答えた。
「大使館へでも一寸顔だしして来ようかと思っているんだけど。――手紙類を、大使館気づけで受けとるようにして来たから……」
秋山宇一は、黙ったままそれをききながら小柄な体で、重ね合わせている脚をゆすった。
「じゃ、こうなさい」
席から立ちかけながら、瀬川が云った。
「もう三十分もすると、どうせ私も出かけて|ВОКС《ヴオクス》へ行かなけりゃならない用がありますから、御案内しましょう。|ВОКС《ヴオクス》は、いずれ行かなければならないところでしょうから」
「それがいいですよ。|ВОКС《ヴオクス》を訪ねることは重要ですよ」
濃くて長い眉の下に、不釣合に小さい二つの眼をしばたたきながら、我からうなずくようにして秋山宇一が云った。
「外国の文化人たちは、みんな世話になっているんですから」
「じゃ、それでいいですね」
瀬川が実務家らしく話をうちきった。
「|ВОКС《ヴオクス》からは大使館もじきです」
|ВОКС《ヴオクス》と
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