おしながされることが出来なかった。中流の環境としてみれば、伸子の周囲は平穏ではなかった。けれども、波瀾そのものが、伸子にいつでもそれと一致しない自分の存在についてつよく感じさせるたちのことばかりだった。その苦しさのぎりぎりのようなところで、伸子はモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]へ来たのであった。
息苦しい存在の壜のようなものが熱量のたかいモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]生活でとけ去って、観ることのこんなにもうれしい自分、感じることがこんなにも愉《たの》しい自分、知ってゆくことの面白さで子供っぽくさえなっている自分がむき出しになっていることを発見したとき、伸子は自分とモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]とを、抱きしめた。モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]でのすべての印象は、日本の生活でそうであったようにせまい漏斗で伸子の内面にばかりたまりこまなかった。伸子の主観でつつまれるにしては、事件にしろ見聞にしろその規模が壮大であり、複雑であり、それ自身としての真面目な必然と意義をもっていた。旧さと新しさが異様に交りあったモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1
前へ
次へ
全1745ページ中80ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング