神経をいためられた。そのことに、どこまで自分の責任があるのだろう。伸子はそこがよくわからなくて、眠りにくかった。伸子にわるいところがあるとすれば、それは、このモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]の新しい生活で素子を押しのけようとすることではなくて、反対に、ここの生活に対する伸子の興味があんまりつよいためについ言葉のわかる素子にたよろうとする傾きがあることだ。実際モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]の朝から夜までの生活は、狭くせつない一本の壜《びん》づめのようだった伸子の精神を、ひろいつよい外界へ押し出した。佃と結婚し、それに失敗し離婚してから。更に素子と暮してからの数年、伸子の二十歳以後の存在は一本の壜のようだった。せまい壜の口から、伸子のよく生きたいという希いで敏感になっている漏斗《じょうご》をこして、トロ、トロと濃い生活の感銘が蓄積されて来た。けれども、その生活の液汁は、伸子の胸をすっとさせ、眼の裡を涼しくさせるような醗酵力はもっていなくて、或るときは熱く、あるときはつめたく、そしてときには壜がはりさけそうに苦しく流れこんで来るにしても、伸子はかたときもそれに無心に
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