る。並木道《ブリ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ール》の入口にコップ一杯五カペイキの向日葵の種やリンゴ、タバコを売っている屋台店《キオスク》があり、一軒の屋台店では腸詰だのクワスだのを売っていた。その屋台店の主人は顔の黒い韃靼《だったん》人で、通りがかった伸子をきつい白眼がちの眼でじろりと見て、壺から真黄い粟のカーシャをたべていた。雪の白さに、韃靼人の顔の黒さはしんから黒く、粟の黄色さは目のさめる黄色だった。色彩のそんな動きも、絵か音楽のように伸子の心にはいった。
風景に情趣こまやかなのはストラスナーヤから左の並木道で、同じ並木道でも右側にのびた方はいつも寂しく、子供たちも滅多に遊んでいなかった。遠くに古い教会の尖塔が見える雪並木の間を、皮外套に鳥打帽子の人たちが、鞄をかかえ、いそがしそうに歩いていた。道を歩いているというよりも用事から用事へいそいでいるようなその歩きつき。ぐっと胴でしめつけられた皮外套の着かたや、全神経が或る一点に集注されていて、ものが目に入って来ない眼つき。そういう視線が無反応に自分の上を掠めるのを感じながら、こちらからは一つずつ一つずつそういう顔を眺めて並
前へ
次へ
全1745ページ中67ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング