エヴナについてここで暮すようになり、女の子は、父親について別れた。
 このマリア・グレゴーリエヴナのところへ素子も通いはじめた。素子は、プーシュキンの「オニェーギン」をよみはじめた。

 マリア・グレゴーリエヴナの稽古から、真直伸子がホテルへかえって来ることはほとんどなかった。ストラスナーヤ広場から、雪につつまれた並木道をニキーツキー門の方まで歩いてみることがあった。その時間の並木道は、ひどい雪降りでないかぎり、戸外につれ出されている赤坊と子供たちでいっぱいだった。すっかり蒲団《ふとん》にくるまれた赤坊は、乳母車のなかで小さく赤い顔だけ出して遊歩道を押されて行った。すっぽり耳までかくれる防寒帽に、紐でつったまる手袋、厚外套で仔熊のようにふくらんでいる子供たちは、木作りの橇をひっぱっていた。その上に腹這いにのっかって、枝々に雪のある楡《にれ》の並木の間の短い斜面を、下の小道まで辷りっこしている子供たち。
 纏足《てんそく》をして、黒い綿入ズボンに防寒帽をかぶった中国の女が、腕に籠を下げ、指にとおしたゴム紐で、毬《まり》をはずまして売っていた。その毬は支那風に、赤、黄、緑の色糸でかがってあ
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