Aわたしたちだってモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]から出る前だったんだし、よかったのさ。こんどは少し腰をおちつけなくちゃ」
 伸子たちの夏の休暇は、間に保の死という突発の事件をはさみ、予定より長びいた。ひきつづいて歌舞伎が日本から来たことは、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]にいた多くの日本人の気持にふだんとちがった影響を与えた。なかでも芝居ずきの素子は、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]で歌舞伎を観るということに亢奮した。そして、その旧い歌舞伎の根元から思いがけない若さでひこ生えて来ているような長原吉之助の俳優としての存在が、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]の環境で、伸子と素子との日常に接近した。伸子は、保に死なれ、生れた家や過去の生活ぶりから絶縁された自分を感じている心の上へ、長原吉之助や映画監督エイゼンシュタインが新しい生活と芸術を求めて動いているエネルギーを新しい発見としてうけとった。うち[#「うち」に傍点]はないようになっても、うち[#「うち」に傍点]よりほかのところに伸子の精神につながった動きがあるという確認は、伸子を力づけた。長
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