キことのように思えた。メイエルホリドの舞台は強度に様式化されていて、人物の性格描写も、ム・ハ・ト(芸術座)のリアリスティックな演技とは正反対に、観念で性格の焦点をつかんだ運動で様式化して表現された。フレスタコフもそういう演出方法だった。そういう舞台で、ガーリンのような額をもつ俳優が、鋭い運動神経で現在成功していることもわかる。しかし、伸子は、何だか芝居としてメイエルホリドの舞台に沈潜しにくいのだった。
 ガーリンは、一時間ばかりいて、帰って行った。一二度、吉之助のやる型を見習って、すぐ自分で床に膝をついてやって見たりした。
「こっちのひとたちは、あんな人気俳優でもあっさりしていますね」
 吉之助は師匠役に満足したらしく云った。
「われわれの間じゃ、何一つおそわろうたって、大したさわぎなんです。人を立てたり、つけ届けしたり」
「そりゃ能も同じですよ。家伝だもの――大したギルドですよ」
 伸子は、ガーリンのおでこのことを話した。
「気がつかなかった?」
「そうだったかな」
 運動神経のよさと、俳優としての人間描写の能力とは同じものでないし、いつも同じ一人の中にその二つの素質が綜合されてある
前へ 次へ
全1745ページ中529ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング