ソとはまるでちがった顔だちで、アメリカの素晴らしい踊り手フレッド・アステアによく似たおでこの形をしているのが伸子の目をひいた。アンナ・パヴロ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ァも、ああいうこぢんまりとして横にひろいおでこをもっていた。少し鉢のひらいたような聰明で敏捷なガーリンの丸いおでこは、『検察官』のフレスタコフとはちがった役柄が彼の本領を発揮させそうに思えた。メイエルホリドは、前のシーズンから構成派風の奇抜な舞台装置で、蒼白くて骨なしめいたフレスタコフを登場させているのだった。
 ガーリンは、歌舞伎のきまり[#「きまり」に傍点]を直接自分の舞台の参考にしたいらしく、忠臣蔵で見たいくつかの例で吉之助に質問した。きのうの話し合いで、伸子がガーリンのいうとおりをあたりまえの日本語で表現すると、素子が、
「ああ、かけこみのきまりのことだ」
という風に補足した。
「そうですね、じゃ」
と、吉之助は洋服のまま、ホテルのむきだしの床に片膝をついて型をして見せた。
 そんな間にも伸子には、ガーリンの特徴のあるおでこが目についた。ガーリンが歌舞伎の型にこれだけ興味をもつことも彼の舞踊的な素質を示
前へ 次へ
全1745ページ中528ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング