て来た。
「あれは、なに?」
 若い動物がぴくりとしたように伸子が耳をたてた。
「マルセイエーズじゃない?」
 粉雪の夜をとおして、どこからかゆっくり、かすかに、メロディーが響いてくる。
「ね、あれ、なんでしょう?」
 秋山が、一寸耳をすませ、
「ああ、クレムリンの時計台のインターナショナルですよ」
と云った。
「十二時ですね」
 きいているとやがて、重く、澄んだ音色で、はっきり一から十二まで時を打つ音がきこえて来た。金属的に澄んで無心なその響は、その無心さできいているものを動かすものがあった。
「さあ、とうとう明日《あした》になりましたよ、そろそろひき上げましょうか」
 みんないなくなってから、伸子は、カーテンをもち上げて、その朝したように、またそとをみおろした。向い側の普請場を、どこからかさすアーク燈が煌々《こうこう》とてらし、粉雪のふる深夜の通りを照している。銃を皮紐で肩に吊った歩哨が、短い距離のところを、行って、また戻って、往復している。モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]は眠らない。伸子はそう感じながら長い間、アーク燈にてらし出されて粉雪のふっている深夜の街を見ていた
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