B雨を黄色さで明るくしている秋の樹木と柔らかな灰色のとりまぜは、せわしいモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]の街の隅々に思いがけない余情をたたえさせた。
旅行からかえった伸子たちは一時またパッサージ・ホテルに部屋をとって暮していた。日本から左団次が歌舞伎をつれてモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]とレーニングラードへ来るという話が確定した。シーズンのはじめに日本の歌舞伎がロシアへ来て、二つの都で忠臣蔵と所作ごととを組合わせたプログラムで公演するという評判は、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]にいる日本人のすべてにとって一つのできごとであった。ヴ・オ・ク・スと日本大使館とがこの歌舞伎招待の直接の世話役であったから、伸子と素子とは何かの用事でどっちへ行っても、必ず一度はモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]へ来る歌舞伎の話題にであった。浮世絵などをとおして、日本のカブキに異国情緒の興味を抱いているヴ・オ・ク・スの人々の単純な期待にくらべると、日本の人たちがモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]へ来る歌舞伎について話すときは、深い期待といくらかの不安が
前へ
次へ
全1745ページ中489ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング