ツきまとった。歌舞伎が日本特有の演劇だとは云っても、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]へ来ている人たちのなかで、ほんとに歌舞伎についていくらかつっこんで知っているのはほんのわずかの男女であった。日本にいたときだって、歌舞伎などをたびたび見ることもなく暮していた人々が、うろ覚えの印象をたぐりながら、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]へ来るからには歌舞伎はどうしてもソヴェトの市民たちに感銘を与えるだけ美しくて立派でなくては困るような感情で噂するのだった。
 芝居ずきで、歌舞伎のこともわりあいよく知っている素子は、
「歌舞伎の花道のつかいかた一つだって、ソヴェトの連中は、無駄に観やしませんよ。舞台を観客のなかへのばす、ということについて、メイエルホリドにしろ随分工夫してはいますけれどね、歌舞伎の花道の大胆な単純さには、きっとびっくりするから」
 社会主義の国の雰囲気の中で古風な日本の歌舞伎を見るということに新しい刺戟を期待して、素子は熱心だった。
「ただ解説が問題だよ、よっぽど親切な解説がなけりゃ、組合の人たちなんかにわかりっこありゃしない」
 モスク※[#濁点付き片仮名
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