ンこんで、
「リザ・フョードロヴナが、正確にお答えになったと思います」
と短く返事した。

 伸子が夜となく昼となく自分の悲しみをかみくだき、水気の多い歎きの底から次第に渋い永続的な苦しさをかみだしている間に、パンシオン・ソモロフの朝夕はエレーナ・ニコライエヴナが来てから変りはじめた奇妙な調子で進行していた。
 食卓でトルストイの家出の話が、何かひっかかる言葉の綾をひそめて話題になってから程ない或る午後のことだった。ヴェルデル博士、伸子、素子の三人で、二マイルばかりはなれた野原の中にたっている古い教会の壁画を見に行った。附近の村からはなれて、灌木のしげみにかこまれた小さい空地にある淋しい廃寺で、ビザンチン風のモザイクの壁画が有名だった。そこを出てぶらぶら来たら、思いがけず正面の茂みの間をエレーナ・ニコライエヴナと技師とがつれ立って歩いているのにぶつかった。双方ともにかわしようのない一本の道の上にヴェルデル博士と伸子たちとを見て、エレーナと技師は組んでいた互の腕をはなしたところらしかった。そのままの距離で二人は二三歩あるいて来ると、派手な水色で胸あきのひろい服をつけたエレーナ・ニコライエ
前へ 次へ
全1745ページ中483ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング