烽ェなくって困っている高校生の一年分の月謝が出たかもしれないと伸子が言ってやったことについて、保は率直に、僕はまるでそんな風には考えてみなかったといってよこした。僕はそれをたいへん恥しいことだと思う。その一句のよこには特別な線がひいてあった。あのハガキをよんだとき、伸子はそういう保の心をどんなに近く自分の胸に抱きしめただろう。かわゆい保。――新しい悲しさで茶のコップをとりあげた伸子の喉がつまった。
そのとき、テーブルの向い側からエレーナ・ニコライエヴナが、さっきからの話のつづきで、変に上気した顔つきをしながら伸子に向って、
「あなたは小説をおかきになるんですってね。婦人の作家としてトルストイのこの問題をどうお考えです?」
と話しかけた。伸子はエレーナ・ニコライエヴナの人がらにも話ぶりにも、どちらにも好感がもてなかった。エレーナ・ニコライエヴナは食卓の礼儀とすれすれなところで、赧ら顔の頬から顎にかけて剃りあとの濃い、口元にしまりなくて羽ぶりのいい技師とトルストイをたねにいちゃついているだけのことだった。伸子は、ロシア語のよく話せないのを幸い、喉にこみあげている悲しみのかたまりをやっとの
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