ニ、メーデイのすぐあと日本へかえった秋山宇一を送ってからレーニングラードへ来ている内海厚の斡旋であった。
 そこはネ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]河の河岸で、窓ぎわにたつと目の下に黒く迅いネ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]の流れがあった。遠く対岸にペテロパウロフスク要塞の金の尖塔が見えている。伸子と素子とが並んで、ネ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]の流れの落日を眺めたりする窓は、二人の立姿が小さく見えるぐらい高く大きかった。白夜の最中で、毎日午後十二時をすぎての日没だった。伸子と素子が日本の女の肌理《きめ》のこまかい二つの顔を真正面から西日に照らされながら見ている前で、太陽は赤い大きな火の玉のようにくるめきながら、対岸に真黒く見えている三本の大煙突の間に沈みかかっていた。ネ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]の流れが先ず暗くなって鋼《はがね》色に変った。しかし、まだ伸子たちの顔を眩しくてりつけている斜陽は、もとウラジーミル大公の宮殿だったというその部屋の、天井や壁についている金の縁飾りを燃え立たせている。伸子たちが立って入日を見ている窓のよこに大煖炉があって、その
前へ 次へ
全1745ページ中391ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング