ニしては珍しく、決断のこもった調子の文章であった。字はいつもながらの字で、大いにテニスをやり、自転車をのりまわし、ドライヴもしてと書いてあった。伸子は、そのハガキを手にとって読んだとき、何となし唐突なように感じなくもなかった。けれども、伸子が保から来たそのハガキをよんでいるモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]は、もう夏だった。並木道《ブリ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ール》の入口に、赤と桃色の派手な縞に塗ったアイスクリームの屋台店が出て、遊歩道には書籍市が出来た。日曜日には菩提樹の下で演奏される音楽が伸子たちの部屋へもきこえた。レーニングラードへ行こうとしてその支度にとりかかっていた伸子は、保の夏のプランというものも、ひとりでに自分がその中にいるモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]の夏景色にあてはめて読みとった。
第三章
一
白夜の美しいのは六月のはじめと云われている。伸子と素子とはその季節に、二ヵ月あまり暮したアストージェンカの部屋をひきあげてレーニングラードへ向った。
春とともに乾きはじめて埃っぽくなるモスク※[#濁点付
前へ
次へ
全1745ページ中381ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング