ВОКС《ヴオクス》の会長をしている、という事実に興味があると思いますね。ある意味では、ソヴェトというところの、政治的な大胆さを雄弁に示しているとも云えるでしょう。トロツキストに対して、これだけ批判されている最中、その女きょうだいを、ああいう地位に平気でつけているのは面白いですよ」
秋山宇一が、小柄なその体にふさわしく小さい両方の手をもみ合わせるようにして、よく彼が演壇でする身ぶりをしながら、
「カーメネフは追放されているんですからね、ジノヴィエフと一緒に――」
素子は、だまっていたが、やがて、きわめて皮肉な笑いかたをして、
「なるほどね」
と云った。
「|ВОКС《ヴオクス》へ来るすべての外国人は、そういう点で一応感服するというわけか。――わるくない方法じゃありませんか」
どういうことがあるにしろ、自分はいやだと云いたい一種の強情を示して、素子は、
「あんな女のいる|ВОКС《ヴオクス》の世話になるのは、いかにもぞっとしないね」
と云った。それをきいて秋山がすこし気色ばんだ。小さい眼に力の入った表情になった。
「それは個人的な感情ですよ。――ソヴェトの複雑さを理解するためには、
前へ
次へ
全1745ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング