ンスを浮べて、
「秋山さんは、コーカサス美人がすっかり気に入りましてね、日本の女によく似ているって、とてもよろこばれたですよ」
と云った。室の入口にぬいでかけた外套のポケットから、ロシアタバコの大型の箱を出して、テーブルのところへ来た素子が、瀬川に、
「いろいろお世話さまでした」
 律義にお辞儀をした。
「しかし、なんですね、あの美人も美人だがカーメネ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]という女も相当なもんだ」
「…………」
 秋山はだまって目をしばたたいた。瀬川も黙っている。瀬川としては、素子がそれをおこっているように、夫人が、あれほどのおくりものに対してろくな礼も云わなかったということを認めにくい感情があるらしかった。黙って、タバコの煙をはいた。
「あのひとはいつも、あんな風なんですか」
 くい下っている素子に秋山が、あたらずさわらずに、
「どっちかというと堅い感じのひとですがね、そう云えるでしょうね」
 同意を求められた瀬川は、
「元来あんまり物を云わない人ですね」
 そう云った。そして、つづけて、
「しかし、わたしはカーメネ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]夫人が、あの|
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