いつも虚心坦懐であることが必要です」
「吉見さん、あなたは第一日からなかなか辛辣なんですねえ」
瀬川が、苦笑に似たように笑った。
「けれど吉見さん、ああいう文化施設はあっていいものだと思われませんか」
そうきいたのは内海であった。
「それについちゃ異存ありませんね」
「施設と、そこで現実にやっている仕事の価値が、要するに問題なんじゃないですか」
「…………」
「ああいうところも、よそと同じように委員制でやっているから、一人の傾向だけでどうなるというもんではないんでしょう」
内海の言葉を補足するように、秋山がつけ加えた。
「|ВОКС《ヴオクス》は、政治的中枢からはなれた部署ですからね。ああいう複雑な立場のひとを置くに、いいんでしょう」
伸子は、みんなのひとこともききもらすまいと耳を傾けた。これらはすべて日本語で語られているにしても、伸子が東京ではきいたことのない議論だった。そして、きのうまでのシベリア鉄道で動揺のひどい車室で過された素子と伸子との一週間にも。
「どうしました、佐々さん」
瀬川が、さっきから一言も話さずそこにいる伸子に顔をむけて云った。
「つかれましたか」
「い
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