塔Jの角まで来た。そこで、立ちどまった。そして、
「宮野さん、どっちです?」
ふりむくようにしてきいた。折から、左手のゆるやかな坂の方から劇場広場の方向へゆく電車がのんびりした日曜日の速力で来かかっている。
伸子たちが住んでいる建物の板囲いからいくらも来ていないのに、いきなり素子からそうきかれて、宮野は間誤《まご》ついたらしかった。口のうちで、さあ、とつぶやきながら、うっとうしそうな睫毛をしばたたいた。
「――僕は、『赤い罌粟』の切符を買いに行っておきましょう」
「じゃ」
素子が、鞣帽子をかぶっている頭をちょいと下げて会釈した。
「わたしたち、こっちですから……」
宮野は鳥打帽のふちに手をかけた。
「レーニングラードへいらっしゃることもあるでしょうから――いずれまたゆっくりあちらでお目にかかります」
こうして宮野は電車の停留場のところへのこった。
伸子たちは、自然、停留場のあるその町角をつっきって、並木道《ブリ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ール》へ入った。並木道《ブリ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ール》も、よごれた雪の堆積がまだどっさりあるけれども、真中にひ
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