ニすじ、柔かなしっとりした黒い土があらわれている。名残りの雪がその辺の到るところにあるだけに、その間にひとすじのあらわれた黒い土は、胸のときめくような新鮮さだった。艷と、もう芽立ちの用意のみえる並木道の菩提樹や楓《かえで》のしなやかさをました枝のこまやかなかげは、その樹々の根っこに残雪をもって瑞々しさはひとしお感覚に迫った。
得体のしれない客に気分を圧しつけられていた伸子はしっとりした黒い土の上の道を、往き来の群集にまじって歩きながらふかい溜息をつくように、
「ああ、防寒靴《ガローシ》をぬいでしまいたい!」
と云った。冬のぼてついたものは、みんな体からぬいでしまいたい。早春の日曜日の並木道は、すべての人々をそういう心持にさせる風景だった。それでも、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]人は北方の季節の重厚なうつりかわりをよく知っていて、まだガローシをぬいでいるものはなかったし、外套のボタンをはずしているものもなかった。とける雪、暖くしめった大地、芽立とうとしている樹木のかすかな樹液のにおい。それらが交りあって柔かく濃い空気をたのしみながら、伸子と素子とはしばらくだまって並木道《
前へ
次へ
全1745ページ中284ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング