A伸子はかけおりて外へ出た。菩提樹の根もとを深い雪が埋めている大使館の庭の柵のそばに立って、そのハガキをよみだした。読みながら伸子は無意識に一二度そのハガキの面を、茶色の鞣手袋をはめた指さきで払うようにした。保の字は例のとおり細く力をぬいたうすいペン字で、こまかく粒のそろった字面が、遠いところをもまれて来たハガキの上で毛ばだち、読めはするのだけれども伸子のよくよく読みたい感情には読みにくいのだった。
「姉さん、僕にあてて書いてくれた手紙をありがとう」
先ず冒頭にそう書いてある。伸子は、よかった、と思った。多計代は、あんなに当然なことのように保に書いた伸子の手紙を勝手に開け、読み、おこってよこした。それでも伸子の手紙を保からかくしてはしまわなかった。そういうところは多計代らしいやりかただった。
「僕は、姉さんの手紙を幾度も幾度もくりかえして読んだ。いま、返事を書きはじめる前にも、また二度くりかえして読んだ。そして姉さんのいうことは正しいと思う。姉さんが外国へ行って、まるでちがう生活をしていても、僕のことをこんなに考えていてくれるということがわかって、僕は、ほんとにびっくりした」
簡単
前へ
次へ
全1745ページ中247ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング