、全く生気を欠いていてどこか膠《にかわ》の匂いのする泥でつくられたその大人形は、カーメネ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]夫人の全存在と余りかけはなれていた。夫人は、実際、好奇の心をうごかされながら、未開な文化に対する物めずらしさを顔にあらわしてみているのだった。
 夫人は、ため息をつくような息づきをして、黙ったままそっと人形をデスクの上においた。
 また、いんぎんな瀬川の方から、何か話題を提供しなければならない羽目になった。
 伸子は、段々驚きの心を大きくして、わきにいる素子と目を見あわさないでいるのには努力がいった。こんなつき合いというものがあるだろうか。瀬川の日本人形が出されてさえ、夫人が、若い女性である伸子たちに、くつろいだ一言もかけないということは珍しいことだった。夫人の素振りをみると、何も伸子たちに感情を害しているというのでもないらしかった。ただ、関心がないのだ。
 そう思ってみると、カーメネ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]夫人のとりなしには、文化的であるが社交の要素も加味されているこの文化連絡協会の会長という立場に、据りきっていないところがあった。この広々として
前へ 次へ
全1745ページ中23ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング