灰色としぶい水色で統一されたしずかな照明の部屋に一人いる夫人の内面の意識は非常に屡々《しばしば》、こうやって言葉のわからない外国人に会ったり、国際的な文化の話をしたりすることとは全く別などこかに集注されることがあるように感じられた。夫人は、彼女ひとりにわかっている理由によって万年不平におかれているようだった。
瀬川は、新しい話題をさがしているようだったが、
「ああ、あなたがたのもっていらしたものがあったんでしょう?」
伸子たちをかえりみた。
「いま、出したらどうです」
心からのおくりものがとり出されるには、およそそぐわないその場の雰囲気だった。しかし、素子が、いくらかむっとして上気し、そのために美しくなった顔で立ち上り、二人のみやげとしてもって来たしぼり縮緬《ちりめん》の袱紗《ふくさ》と肉筆の花鳥の扇子とをとり出して、カーメネ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]夫人のデスクの上においた。そして、彼女はロシア語が出来るのに、ひとことも口をきかないで、ちょっとした身ぶりで、それを差しあげますという意味を示し、その瞬間ちらりと何とも云えない笑いを口辺に漂《うか》べた。それは、カーメネ
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