人形を両手にとった。
「――非常に精巧な美術品です」
 カーメネ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]夫人は、ヨーロッパ婦人がこんな場合よくいう、オオとか、アアとかいう感歎詞は一つもつかわなかった。
 日本人形の名産地はソヴェトで云えばキエフのようなキヨトであること。この藤娘は京都の特に優秀な店でつくらしたものであること。人形の衣裳は、本仕度であるから、すっかりそのまま人間のつかうものの縮小であること。それらを瀬川はことこまかに説明した。
「もちろん、十分御承知のとおり、すべての日本婦人が毎日こういう美的な服装はして居りません――彼女たちの日常はなかなか辛いのですから……」
 瀬川の説明をだまってきき、それに対してうなずきながら、カーメネ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]夫人は、持ち前の三白眼でなおじっと、両手にもった人形を観察している。
 こっちの椅子から、伸子たちが、またじっと、その夫人のものごしを見まもっているのだった。伸子には、人形をみている夫人の胸の中をではなく、その断髪の頭の中を、どんな感想が通りすぎているか、きこえて来るような気がした。色どりは繊美であやもこいけれども
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