塔vをはいている足さきに力をいっぱいこめて、足を下へおろそうとした。
「おろして!」
思わず英語で低く叫ぶように伸子は云った。
「おろして!」
背が高くて力のつよいポリニャークの腕の上から、伸子がいくら足に力をこめてずり落ちようとしても、それは無駄であった。伸子は、左手でポリニャークの胸をつきながら、
「声を出すから!(ヤー、クリチュー!)」
と云った。ほんとに伸子は、秋山と吉見を呼ぼうと思った。
「ニーチェヴォ……」
ポリニャークは、またそう云って、その室の中央にある大きいデスクに自分の背をもたせるようにして立ちどまった。そこで伸子を床の上におろした。けれども、伸子の左腕をきつくとらえて、酔っている間のびのした動作で、伸子の顔へ自分の大きな赧い顔を近づけようとした。伸子は、逃げようとした。左腕が一層つよくつかまれた。顔がふれて来ようとするのを完全に防ぐには、背の低い伸子が、体をはなさず却ってポリニャークに密着してしまうほかなかった。くっつけば、背の低い伸子の顔は、丁度大男のポリニャークのチョッキのボタンのところに伏さって、いくら顔だけかがめて来ようとも、伸子の顔には届きようがな
前へ
次へ
全1745ページ中197ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング